職場リーダー(係長・主任相当職)合同研修会

講師:大久保 秀明
株式会社日本能率協会コンサルティング
組織・人事コンサルティング事業本部 HCM推進センター

職場リーダーは日本企業において重要なポジション

 職場リーダー(以下リーダー)になると、それまでの一担当者として仕事をしていた立場から、グループのメンバーを管理しながら仕事をしていく立場に変わります。つまり「マネジメント」能力が必要なポジションへと変化するという点で自身のキャリアにおいて初めて直面する、大きなチャレンジを伴う節目であるといえるでしょう。
 また、リーダーは職場において非常に大きな影響力をもっている存在です。
 上司である管理職に比べ、グループのメンバー一人一人と近い関係にあり、直接働きかける立場にあることから、メンバーへの強い影響力を持っています。
 一方で上司に対してもリーダーの方が他のメンバーよりも近い関係にあるため、自身の立ち居振る舞い次第で上司に対しても大きな影響力を与えることができます。
 上にも下にも強い影響力をもっているわけで、組織の円滑な運営という観点で見ればリーダーは非常に重要なポジションなんですね。リーダーが育ち、活躍することで会社の活力も高まっていきます。
 日本企業は新卒一括採用をずっと続けてきました。若い未経験者を採用し、育てて戦力にしていく。これを継続し続けてきたことが、日本企業成長の土台を支えてきたと思いますが、リーダーはまさにそうした土台を支える要となる存在といえます。
 リーダーになった人には、自分が会社の中でも重要なポジションを務めているんだということをぜひ認識していただきたいですね。
 近年、私のクライアントである会社の人事部の方から、管理職になることを敬遠する若手社員が増えたという話をよく聞きます。管理職は「責任があって大変そう」だと抵抗感をもつ人が多いようです。もしかするとリーダーになった方の中には、あまり喜ばしく思っていなかったり、戸惑っている人もいるかもしれません。
 私は、そうした若手社員の抵抗感や不安は「リーダーや管理職の仕事のやりがい」を理解していないことからくるものではないかと考えています。リーダーとして成功体験を積むことにより、自分一人の力では成し遂げられないような大きな成果を生み出せるのだという実感。自分の指導を通じてメンバーの成長を促進できるのだという実感。そうした実感がやりがいとなり、さらにリーダーからその後管理職へとステップアップを目指そうという意欲が生まれるのだと思います。つまりリーダーとしていかに意欲的に仕事に取組み、成長するかでその後のキャリアは大きく変わるわけです。
 リーダーを務める人は今、自分がキャリアの重要なポイントにいるのだということをあらためて自覚するとよいでしょう。また企業の人材育成に携わる方々も、会社にとってリーダー育成は極めて重要であることを十分認識していただければと思います。

講義やディスカッションを通してリーダーに求められる役割と必要な力を学ぶ

 「職場リーダー合同研修会」はマネジメントの基礎を体系的に学ぶ1日のセミナーです。講義に加え、グループディスカッションやペアディスカッションで受講者同士が議論をしながら学んでいきます。
 受講者はリーダーになったばかりの人や、まだリーダーではないけれど会社から「そろそろリーダーにしたい」と期待を受けて参加している人、すでにリーダーとして経験を積んでいる方など様々で、受講者の年齢層は幅広いです。いずれの受講者も共通して、今までリーダーの役割について教わったことがなく、一般社員からリーダーになるとどのような役割の変化が生じるのか自分として明確な回答を持っていないという方が多いようです。
 そこで研修のまず初めに「リーダーの役割とは何か?」という問いかけから始めます。
 「自分が思っているリーダー像」を語ってもらうと、さまざまなリーダー像が出てきてなかなか面白い。他の人の意見を聞くことで、リーダー像が広がっていくところもあります。
 リーダーの役割を認識した後は、リーダーに必要な力として「目標設定力」「進捗管理力」「成長促進力」「動機づけ力」「関係構築力」「自己成長力」の6つの力を学んでいきます。
 リーダーになれば、一メンバーの時とは異なる一段高い視座に立って、自分は何をすべきかを見出す力が必要になります。また、メンバーに任せた仕事の進捗状況を的確に管理したり、個々人の力を引き出したり、動機づける力が必要になります。つまりはメンバーのことを深く理解する必要がある。「ここまでメンバー一人ひとりとしっかり向き合い、深く接しないと、リーダーの役割は務まらないんだな」といった気づきを得る方が非常に多いですね。
 そして多くのビジネスパーソンにとって、リーダーというポジションは自身のキャリアの最終到達点ではないでしょう。会社側もリーダーに対して、今後、管理職、経営幹部へとステップアップして活躍していくことを期待しています。
 そこで研修の最後は「自己成長力」というテーマで締めくくっています。自分らしいリーダーシップとはどのようなものか、いかにしてリーダーシップを磨いていくか、さらなる成長のためにどのような学びを得ていくべきかをお伝えし、今後の学習・成長の方向性を見出せるようにしています。
 先ほど、管理職やリーダーになりたくない若手社員が増えたという話をしましたが、この「職場リーダー合同研修会」を通じて、そのような方にぜひリーダーというポジションの重要性やその仕事の面白さを紹介していきたい。研修によってリーダーの仕事や役割の重要性を知り、興味を持ってリーダーの仕事に取組む方が増えたら嬉しいですね。

ビジネスパーソンにはスキルと共に人間的成長が不可欠

 近年、若手社員には成長意欲が高い人が多くなっているように感じますが、彼ら・彼女らのキャリア志向はスペシャリスト志向で、特定分野で他者より秀でた知識やスキルを有する専門家を目指している方が多い傾向にあるようです。
 こうしたことの背景には将来への強い不安があるのではないでしょうか。何が起こるかわからないこれからのビジネスの世界で、就職した会社に依存せずに生き残るために、専門的なスキルを身につけることで自らの価値を高めようと考えているのだと思います。
 こうした考え方を持つこと自体は正しいことです。ただし一つ注意しなければならないのは、ビジネススキル習得に偏重せず、人間力を高めることにもより意識を向けるべきであるということです。
 スペシャリストとして働くとしても、他者と一切関わることもなく一人で仕事をすることはありえません。仕事には社内顧客も含めて必ず顧客がいますし、前後の工程を担う関係者やパートナーと協働で仕事を進めるのが普通でしょう。つまり、マネジメント力やリーダーシップが求められるようになります。そしてマネジメント力やリーダーシップの根底にあるのは人間力なのです。
 実はこの「人間的成長が必要である」というメッセージが、「職場リーダー合同研修会」のプログラム全体の通奏低音になっています。受講者が研修を通じてこのメッセージを受けとめ、受講後会社に戻った時に、これまでとは異なる心持ちで職務にあたる。そうした変化が生じるように、講師として受講者が多くの気づきを得られる研修にすることを心がけています。

人材育成に熱心でない企業は優秀な人材を採用できない時代に…

 日本企業は、現在、業種を問わず人手不足感がとても強い状況にあります。人材の流動化も進み、採用した人材をせっかく育てても、転職されてしまうケースもあるでしょう。企業の人事関係者は手厚い人材育成、人的投資を行うことに躊躇してしまう…ということもあるかもしれません。
 しかし、だからといって人材への教育投資をためらってしまうと、 “人を育てない会社”とみなされて、採用で苦戦が強いられたり早期の離職が発生する可能性が高まります。若い人たちは自分が成長できる機会のある会社をシビアに選んでいます。人材育成に熱心ではない会社はいずれ優秀な人材が集まってこなくなるでしょう。
 一方、昨今は人材を人的資本と捉え、投資家の人的資本に対する関心の高まりも背景に、積極的に人的資本に投資をすることで企業価値を高めようという動きも出てきています。このこと自体は「人材の力こそが会社の成長力の源泉である」という適切な認識に基づく動きであり、人材育成に携わる人事部や人材開発部にとっても様々な取組みを進めるうえで追い風になるでしょう。
 ただ、長年人材育成に携わってきた私が個人的に気にかけているのは、人材育成が企業価値を高めるための“手段”と捉えられてしまいはしないか、ということです。人を育てるという行為は企業に限らず人が集団を維持していくうえで当然のごとく為されるものです。実際、経営理念に社員の成長や幸福の実現を謳っている会社は多いでしょう。つまり人材育成自体が企業経営の目的の一つであると言えます。企業価値は投資家からの評価として“株価”で表されることが多いわけですが、人材育成は決して株価を上げるための手段として取り組むものではないということです。
 このことを踏まえると、今こそあらためて自社の人材育成に関する方針を明確にすることが必要なのかもしれません。人材育成の理念を言語化し、方針を明確にして、ぶれない取組みを行っていくことが、いま企業には求められているのではないでしょうか。