情報収集力・商品企画力強化セミナー〔基礎編〕

講師:細矢 泰弘
株式会社日本能率協会コンサルティング
R&Dコンサルティング事業本部 シニア・コンサルタント
早稲田大学大学院 非常勤講師

商品企画の基本を学ぶのは意外にも幅広い年齢層の社員

 商品企画の基本を学ぶセミナーとして20年前に立ち上げたものです。
 受講者の7、8割は商品企画の初心者。ただし、年齢層はとても幅広いです。
 前回のセミナーでは、今年入社して商品企画に配属された大学をでたばかりの若い世代がいる一方、開発などから商品企画に異動になったという50代近くのベテラン社員もいます。
 業種はメーカーを中心に、商社、eコマース企業の社員の参加も増えてきました。
 そして商品企画部やマーケティング部門で長年仕事をしてきたという人も1、2割程度参加しています。もう基礎を学ぶ必要はなさそうですが「マーケティングの全体像、体系だった理論を知りたい」と受講する方が多い。
 ある限られた部分だけの企画をしてきたので、実際にどのような過程で商品化されていくのかがわからない、市場調査のベテランだけどリサーチがどのように商品企画に関わっているのかがわからないといった方が多いです。
 アメリカのビジネスではプリンシプル(principle=原理原則)を重視しているので、商品企画に携わるのは当然、マーケティングのプリンシプルを学んだ人たちです。しかし日本企業の場合はそうではないんですね。体系だった知識は学ばないまま、ある部分の仕事だけを担当しつづけ、その結果前後工程や全体感がわからないままだったという方は結構多い。特に大企業で多いケースです。

チーム演習で「仮想カタログ」の発表まで

 2日間の研修で使うテキストは『コトラーのマーケティング2.0』です。フィリップ・コトラーは日本でもマーケティングの第一人者として人気が高く学者で、新しい状況に合わせ「マーケティング5.0」など数冊の著書が出版されていますが、このセミナーでは消費者にフォーカスした商品企画の基本ロジックがテーマです。
 「顧客価値」「差別化」「売る仕組み」の3つに絞りこんで、さまざまなケーススタディーと共に学んでいきます。ハーゲンダッツの日本進出の事例やトヨタが90年代にレクサスを北米進出させた事例などを通じてなにが大事なのか、基本となる原理原則を紹介していきます。
 講義だけではなく、チーム演習をも行います。4人くらいのグループで、実際に商品企画をやっていただく。
「〇社の食洗器を企画してください」「◎社のポテトチップの企画をしてください」といった課題に対して、リサーチや分析をしながら、最終的には「仮想カタログ」(JMACオリジナルの手法で、顧客のニーズを検証するためのツール)を作って、発表していただきます。
 というわけでかなり盛り沢山な研修です。

研修を通して「自分探し」をする若手社員も

 研修では「体感すること」と「異業種交流」に力を入れています。
 今は一方的に教えるということはあり得ないと思うんですね。知識自体はYouTubeなどからでも十分に学べます。知識の吸収よりも実際に学んだ知識を活用してみること、ほかの参加者と共に議論したりコミュニケーションすることといったことに意味があると考え、研修の半分以上、6割くらいはチーム演習に割き、異業種交流によるディスカッションによる創発の場としています。
 グループは年齢層や業種などがなるべく多様になるように組んでいます。その結果、おじさん世代が固い話をしている横で、eコマースの会社の20代の若い方が自由にしゃべっていたりと、チーム演習ではなかなか多様性豊かな光景が見られます。
 人材教育は一方的に教えることではなく、社員に気づいてもらうことに一番の意味がある。結局自分でハッと気が付いて初めてなにかやろうと思う。その気づきを作る場づくりこそが研修の役目ですね。
 なお、近年は知識やスキルの取得だけではなく、「自分探し」というのか、自分の可能性を探るために研修に参加している受講者が目立ちます。
 これは今の社会状況が大きく影響しています。
 たとえば、以前なら課長になるのは会社でそこそこの経験を積んだ人でしたが、今はヘッドハンティングで社歴ゼロの人がいきなり課長として登場することも珍しくありません。特にコロナ禍以降、異業種から転職してきて管理者になるケースも増えてます。
 このような時代、ずっと一生同じ会社で働き続けるということは現実的ではない。
 さらに人生百年時代、どのような働き方、生き方をすべきかも考えなくてはならない。
 将来に向けて、なるべく自分の可能性を広げ、自分の価値を高めておきたいという意識は、特に若い人の間で高まっているのを感じます。
 自分探しも単にキャリアや仕事に関してだけではなく、個人の幸せの追求にも向かっています。いわゆる「Well Being」です。研修はさまざまな異業種の人と知り合い、コミュニケーションしながら、自分を探す場、自分の可能性を模索する場でもあるのです。

今後、経営はWell Beingの方向へ

 こうした状況を考えると経営面では「従業員の満足」が非常に重要な課題となってきます。
 コンサルティングで私はさまざまな企業のご支援をさせていただいてますが、そこで大きな問題となっているのは採用問題です。どのようにして優秀な人材を採用し、働き続けてもらえるか。これは今企業にとって切実な問題になっていますが、結論としては社員を大事にする会社にしていくしかありません。
 働き方について、これまではライフワークバランスを大事にと言われてきましたが、今後はライフを中心にワークがついてくるような時代になっていくでしょう。
 やがては経営の全体的な流れがWell Beingの方向に向かっていくのではないでしょうか。
 企業ですから事業はもちろん大事なのですが、今後の経営の究極のゴールは、個人としての幸福の追求になっていくでしょう。社員というか人を大切にしたマネージメントをしていかないと企業として伸びない、先がない時代に入ってきたと思います。人材育成もこうした視点から考えていくべきでしょう。