部長のためのマネジメント能力開発コース(GMC)について
一般社団法人日本能率協会 経営・人材革新センター 専任講師
「部長のためのマネジメント能力開発コース」は新任・既任の部長を対象とした3日間の研修です。
研修内容は以下のような6つのセッションで構成されています。内容はオーソドックスですが講義は少なめで、4~5人のグループで他社の部長と共に議論や相互発表などを行いながらアクティブに知見交流するというのが特色です。
役割範囲と責任の再認識
事業戦略のフレームワークと視点
構造改革(イノベーション)
意図的なコミュニケーションの重要性
後継者の指導・育成
高い目線での自部門改革
受講する部長の方々は所属する企業の規模、業種、部門もさまざまです。社員1万人以上の大企業から200人~300人規模の会社まであり、業種は製造業、IT系、素材、建設、金融・保険等と多岐にわたり、部門も開発・設計、生産、営業、品質管理、企画、人事、総務等など多様です。
グループの構成はなるべく多様なメンバーになるようにしているので、研修を通して異業種交流ができるようになっています。
研修で得たものは「新しいスキル、知識」と「異業種交流による気づき」
参加者から評価されているのは大きく2つのポイントです。「新しい知識、スキルを知ることができたこと」と「他業種の部長との議論を通じてさまざまな気づきを得られたこと」です。
スキルに関して1日目のセッションで行う「フレームワーク」を使ったマクロ・ミクロの環境分析に対しての反響が大変大きいですね。マーケティング関連部門の部長にとっては基本なので、彼らの反応はそれほどでもないですが、「STP」「5Force」「SWOT」などを使っての分析はそれ以外の部門の部長には新鮮な経験です。経済雑誌などで読んで知っていたとしても実際にやってみるのは初めてという方もいらっしゃいます。最初はとっつきにくく感じる方もいますが、しかしフレームワークで分析していることは、どの部長もこれまで暗黙の裡に実務上で実施されていることが多いと思います。顧客や競合、取引先のことを考えて仕事をすすめているはずだからです。そこでフレームワークというツールを使うことで「今までやってきたことはこういうことだったのか」と普遍的な方法として認識することができて納得される。「部門でも使っていきたい」という声も多く寄せられます。
3日目の「課長指導のロールプレイ」のセッションも盛り上がります。
「問題に直面している課長をどう指導していくか」という課題に対し、グループごとに全員が部長役、課長役を演じ、他の人たちのロールプレイを見てフィードバックします。ほかの部長がどんな指導やアドバイスをするか、どこでうなずいていたかなど非常に細かい点こそが参考になるようです。また、部長や課長の役を演じることで「もっと一人ひとりの課長に関心を持って接し、それぞれに合った育成計画を考えるべきだった」といった、それまでの自身のコミュニケーションの取り方を反省したり、気づきを得る方もいらっしゃいます。
異業種の部長との交流によって、それぞれの「選択」の意味が明らかに
研修に参加する部長たちは企業規模、業種、部門も置かれている状況はさまざま。実は異なる状況にある部長たちが交流することで、自社や部門の問題の本質に気が付くことが多いのも興味深い点です。
たとえば時間軸や事業規模の違いがあります。
時間軸では、建築関係のプロジェクトなら5年10年という期間ですが、部品関係を扱う部なら2週間、3週間で工程が進んでいきます。事業規模ではゼネコンなら地方の支店長でも10億20億の案件を扱いますが、他の業種では1桁2桁違う案件を多数扱い積上げる等の違いです。時間軸や事業規模が異なれば、おのずと考慮すべきことも変わっていくわけです。
相対している状況の違いを知ることで、それぞれ自部門にとっての選択のポイントは何かといった視点が生まれてくるのでしょう。選択する上での思考が磨かれ、鍛えられるきっかけとなっていきます。
一方、部下とどうコミュニケーションをとるか、どう育成するかといった人に関する問題は業種部門にかかわらず、あらゆる部長にとって悩ましく、生々しい問題です。
演習でお互いの悩みや愚痴も吐き出しつつ意見交換をする中で「みんな大変なんだ」と共感して気が楽になる方もいます。また他社の取組例から自部門のコミュニケーションの課題解決のヒントを見出すケースもあります。
3日間の研修において、異業種異部門交流は部長たちにとって予想以上に得難い体験となっているのではないかと感じています。
「知的機動力」が求められる時代、まず土台となる知識・スキルを
部長には部門の事業や業績を高め、部下の育成や後継者の育成に注力するなどさまざまなことが要求されています。これだけでも大変ですが、さらに企業を取り巻く環境変化をとらえ、会社全体の最適化を視野にいれながら、自部門をどうしていくのか改革シナリオを立てていってほしい…といったことが部長には強く期待されています。
その期待に応えていくのはなかなか難しいことです。しかもVUCA(ブーカ)の時代となってきました。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)が増し急激な環境変化が起こるのに対応していかなくてはならない。
実際に研修参加者の部長たちの声を聴くとVUCAな状況をひしひしと感じます。
先日のセミナーでは、調達部門の部長が「注文した部品が来なかったり、値段が倍になったりしています。納品量は半分で値段は倍に条件を変えられるといったことも起きています」と語っていました。コロナ禍や世界情勢でここ3年はまさにVUCAな現実に部長たちは直面しています。
VUCAだから予測してもしょうがないだろうといっていたら話が終わってしまいます。このような状況だから見極められるものは見極めて対応していくしかありません。見極めて課題を設定し、施策を実行していくという基本的なことをやっていくしかない。しかもスピーディーに。
これからの時代、野中郁次郎氏などが提唱している「知的機動力(Intelectual Mobility)」が部長をはじめ管理職には求められると思います。自身の知見を使った知的な機動力(モビリティ)をどれだけ発揮できるか。知的機動力を今後、部長は養っていかなくてはならないでしょう。
その土台にあるのがマネジメントの基礎的な知識やスキルです。研修で部長に必要なスキルと知識といった基礎力を身につけ、VUCAの時代に向き合う能力を高めていっていただきたいと思います。